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砂塵の記憶

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2009年 07月 20日

蒼き空に紅き御旗を 24

 そこからは、グラハム氏も私も、双方ほとんど動けず、大きな進展はなかった。
 均衡状態は続き、このまま立ち消えるかに思われた。
 しかし、3日経過した朝に、事件は起こったのである。








『大変だフラッド隊長!“バストゥークから使節団がサンドリアを訪問する”と
 ハルヴァー宰相から公式発表。一通りの公務の後、グラハム氏と会談すると!』

 その知らせは、見張り塔内にどよめきを起こした。
 リュウさんからの緊急通信だったが、衝撃を与えるには十分だった。

「とうとうグラハム氏が動き出したか。
 バストゥークを味方に付ける気だろうけど、なかなか扱いの難しい所を持ってきたね」
 
 アイーシャさんが机に頬杖を突きながら、気だるそうに言った。

「しかし、会談程度でどうにかなるものかね。
 会談ていったって、相手は政治屋だろ?口先三寸の詐欺師みたいなものだろうに」

 カイルさんが紅茶に口を付けつつ、呟くように言う。

「いやーでも、軍関係のお偉いさんとかだと厄介だね。
 下手に友好関係でも結ばれたら、援軍は見込めないかも知れないけど、
 装備や兵法は補給されるかも。重装歩兵の本場だからね」

 軍師らしい目付きでアイーシャさんが立ち上がりつつ、設置してあった小さな黒板に向かう。

「まぁ一番厄介なのは、グラハム氏に軍関係の後ろ盾が付くこと。
 一応ワタシが仕入れた情報によると、
 グラハム氏陣営のなかで強力なのは、アシュレイ・ロイスただ一人。
 他は装備も不十分な傭兵ないし冒険者クラス。
 其処に重装備の本場、バストゥークの装備と兵法が加わると、ちょいと厄介だね。
 今回の会談で、ヤツが成し遂げたいのは、バストゥークの装備の、ルート確保だろうね」

 アイーシャさんがこちらの戦力と向こうの戦力を大きなマルで黒板に書き始めた。
 こちらのほうが、向こうの約1.5倍ほどだが、向こうのマルに、重なるように大きな円を付け加えた。
 と、その時、リンクシェルからトリスタンさんの緊急コールが鳴った。

『緊急連絡!バストゥークに動き有り!
 派遣される使節、メンバーが発表されました!
 共和国軍の高級将校3名と、25名の正規兵であることが判明!』

「やはり軍関係で来たね……!タートルさん。そのメンバー、名前わかる?
 あ、将官だけでいいや」

 アイーシャさんの軽い口調の中にも、真剣さが見て取れる。
 情報を要求するときの彼女の癖だ。
 そして、報告には余り大きな情報を要求しない。
 的確に、最低限の情報を摂取する。

『アスタル第17陸戦師団長とバルディアス第19陸戦師団長。
 それと、他1名とリストにあります。
 ご丁寧に、新聞の号外でリストを配っているよ。
 明日、出発式があるってさ』

 アイーシャさんが「なるほど」と呟いて、黒板に書いてあった円を消した。

「他一名ってのが気になるね。
 アスタルとバルディアスはそこそこ名の知れた名将だから分かるけど。
 伏せたい名前なのか、あるいは……軍関係者じゃない可能性があるね。
 ワタシの予想だと、武器商人か技術開発関連のお偉いさんだと思う」

 相手の思惑なども少しずつ予測してきてはいるが、
 しかし私はここで、根本的な問題を提起しようと発言した。

「しかし、そうだとして私たちに出来ることはあるんでしょうか。
 ヘタに妨害工作をしても、バストゥークそのものを敵に回す可能性もあります。
 それと、グラハム氏の目的と思われる、“運命の指輪”ですが。
 私には心当たりはありません。
 シャンが封印されていた指輪かと思うのですが、確証はありません」

 するとスラグさんが、「私がお話しましょう」と手を挙げた。

「実は“運命の指輪”なのですが……とある貴族の隠し宝物であるという噂があります。
 その一族は代々、生涯に一つ、至高と認めた宝物をとある場所に隠すらしいのです。
 しかし、“運命の指輪”だけは、その場所には隠さなかったそうです。
 なぜなら
 その宝物を隠す前に、亡くなられたから」

 スラグさんがこちらを見た。
 ――途端、嫌な予感がした。
 この続きを聞いてはいけない!と。どこからともなく警鐘が聞こえる。

「……運命の指輪の持ち主。その者の名は――」

 一拍置いて、出たその名は。
 おそらく、この場において一番聞きたくない名前だった。



                         「シャングリラ・フレイネージュ」

by creatle | 2009-07-20 17:04 | 外伝:蒼き空に紅き御旗を


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