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砂塵の記憶

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2007年 11月 27日

蒼き空に紅き御旗を 11

「失礼。フラッド隊長は御在室か……ってスラグしかいねーか」
「フラッド隊長は、今日公休日ですよ。どうしました?クリエルさん」







 遠征軍から数ヶ月後。
 特に本部からの指示やイベントもなく、通常業務が日常と化したある日。

「そか……本部から特殊任務の書状預かったんだけど、困ったな」
「私が処理しましょう。書状をこちらへ」

 スラグがクリエルから書状を受け取り、広げた。

「珍しいな。フラッド隊長が公休日にちゃんと休むなんて」
「ああ……今日はお墓参りですよ」
「――親御さんの?」
「いえ……ご友人の、命日だそうです。今日は」

 クリエルはそれを聞くと、少し顔の方向を変えた。

「で、お姫様がご立腹な訳は?」
「置いて行かれたそうです」

 フラッド隊長の机の上には、
 いつも快活な笑顔を振り撒く顔がふくれていた。
 激しく機嫌が悪そうな顔で、じーっとクリエルを見ていた。
 そこでクリエルが取った行動は――!

「そうか。――じゃ、私は業務に戻る」
「――ええ。賢明です」

 君子危うきに近寄らずと言う。
 スラグは頷くと、それぞれは通常の業務に戻った。



 その日の午後、宿舎に帰る前に明日の業務を確認しようと、執務室に入った。

「フラッドー!どこ行ってたの!?行くなら行くで連れてってよ!」

 私に体当たりするように、シャンが飛び込んできた。

「ああごめんシャン。今日は、お墓参りに行っていたんだ」
「そうじゃなくて!どうして連れてってくれないのよ!」

 どうやら連れて行かなかったことにご立腹のようだ。

「ゴメン。“彼女”とは、二人だけで会いたいんだ」
「むー!」
「――本当に、大切な人……だったんだ」

すると、シャンはばつが悪そうな顔をして、静かになった。

「わかった。思い出、大事だもんね」
「ん?」
「忘れないであげて」
「どうした?シャン」

 シャンは、私の服を掴んで、
 下を向いたまま、ぽつりぽつりと語り始めた。

「私にも居たの。大切な人。
 でも、――でも、
 顔が思い出せない。
 名前も覚えてない。
 なんで、大切だったか、分からないけど。
 でも、私は、覚えていてあげたかった」

 いつものシャンには似つかわしくない、か細い声だった。

「思い出せるといいな」
「うん……だからね」

 顔を上げたシャンはいつもの笑顔で。

「だからどこかつれてけー!」
「……はいはい」



 私とシャンは、住宅区に来ていた。
 この間、クリエルさん尾行の時にアイスクリームを買った店の前を通った。
 案の定、シャンがアイスが食べたいと騒ぎ出したのでアイスクリームを二つ。
 特に目的があるわけでもなく、フラフラと散歩していた。

「あ、フラッド。ここ、右に曲がろ?」

 ココは交差点。正面は城壁。左は西門への道。
 右側……そこは。その場所は……。

「……わかった」

 右に曲がり、正面を見た。

 ――そこは、黄金の丘だった。
 夕焼けが草原の丘に映され、黄金色に輝いていた。
 子供達の遊び場になりそうなその場所。
 しかし、ひっそりと。
 誰も知らぬとばかりに、誰もいないその広場。

「この前、気持ちよさそうな丘だなーって見てたんだ。
 あのてっぺんまで行ってみたいっ」
「――ああ。行こうか」

 登っていく。
 その丘の頂上には、一つの物があった。
 それは……

「お墓……?」
「うん。お墓だ。大切な……大切な人のお墓だ」

 墓石には、こう刻まれていた。

  Shangrila.Frayneige
   907.4.7 - 914.11.20
                      』

「シャングリラ……フレイネージュ……さん……?」
「うん……小さい頃から、ずっと仲が良くてね。
 一緒に遊んだりしてた。
 何時も一人きりで、ぬいぐるみと遊んでいた子だった。
 そんな彼女を見かねて、何時も連れ出して、一緒に遊んでいた」

 ああ……ダメだ。
 ここに人を連れてくると、どんどん喋ってしまう。
 既に、故人だと言うのに。
 人に聞かせたところで、何かが変わるわけでもないのに。

「ある時、約束をしたんだ。
 小さな約束。
 騎士の真似事をして、誓いを立てたんだ。
 
 ――あらゆる困難の中でも、シャングリラを守り抜く。
    私は、未来の騎士、フラッド・クレセントウッド。
    私は、貴女の盾となり、剣となることを誓う。――

 二人で、吟遊詩人の騎士譚を聞いた後で、やってみたいって話になってね。
 少ないお小遣い削って、色々と小道具まで用意して。
 観客も誰も居ない。そんな二人だけの劇をやっていたんだ」

 シャンは、黙って聞いてくれている。
 いつもの様な快活さは無く、しっかりと、受け止めるように聞いていた。

「その翌日。シャングリラが、火事で亡くなった事を聞いた。
 本当に悲しくて。
 一晩中泣いて。
 そして、思ったんだ。
 人を亡くすことは、こんなにも辛いことなんだと。
 だから、僕は、そういった人を少なくしたい。なくしたい。
 その為に、本物の騎士になろうと。
 騎士になって、サンドリアのみんなを、世界のみんなを、悲しみから守ろうと」

 シャンは、頷いてくれた。

「そっか。
 なんか、やっとフラッドの事、少しずつ分かってきたかも。
 そんなに頑張るのも、戦いに出るのも。不自然だと思ってた。
 なら!私はそのお手伝いしなきゃねっ!
 ――シャングリラさん。また来てあげる。
 来てくれるの、一人より、たくさんの方がいいでしょ?」

 帰ろうっフラッド!
 とばかりに、お墓に背を向けて、すいーっと後ろに飛んでいった。

「シャングリラ。また来るよ。
 少し、賑やかなのも、一興かな?」

 私はお墓に微笑み、シャンをゆっくりと追った。



「フラッド隊長、来たと思ったら出ていっちまったな」
「ええ。大変ですね。隊長も」

 夕暮れの執務室。
 書状を手に持って立とうとしていた青年と、
 壁に寄りかかって腕を組んでいる青年がドアを見ていた。

「で、そのシャングリラさんは……。
 墓に遺体も遺骨も無いって本当なのか?」
「ええ。屋敷は完全に灰燼。ご当主と、奥様はすぐに発見されましたが。
 シャングリラさんは、遺体が原型を止めていなかったそうです。
 側にぬいぐるみが数点あり、遺体らしきものがあった。手は、形状があったそうで。
 そこが、シャングリラさんの寝室であったこともあり、死亡と断定されたそうです」
「……そう、か」
「シャングリラさんのご遺体は、原因究明のために専門家が回収していって。
 だから……お墓には、彼女の遺体はないんですって話ですよ」

 クリエルがため息をつくと、スラグは書状をフラッドの机の上に置き、
 メモを添えて、重しを乗せた。

「さて、晩飯の支度でもするかね。
 今日はクァール肉のソテーとバタリア菜のサラダ、堅焼きアイアンパンだからな。
 遅くならない程度に帰ってこいよ」
「ああ今日の当番でしたか。
 楽しみにしていますよ。
 そういえば、最近やけに料理の腕が上がっていますね。
 あの可憐な師匠のおかげでしょうか?」

 スラグの含み笑いに、クリエルはため息と共に肩をすくめた。

by creatle | 2007-11-27 03:46 | 外伝:蒼き空に紅き御旗を


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