砂塵の記憶

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2007年 02月 15日

蒼き空に紅き御旗を 2



 午後10時。
 空は満天の星空。月は青白く、冷たく照らし続けている。
 南サンドリア居住区に、私たちが生活している宿舎がある。
 様式は冒険者達が利用するモグハウスと変わらない作りだが、
 建物一つを、赤獅子騎士団の部隊毎で借りている。
 何時も慣れた道。







 だが

 ガッシャーン!

 突然、目の前の建物の窓ガラスが割れ、人が飛び出してきた。
 真夜中。ガラスが割れる。出てくる人。
 状況を判断し、私は剣を抜いた。
 まずは剣の平で対象を叩く。
 抜きかけた鞘を平行に。
 居合いの要領で振り抜く。
 相手を衝撃にて動きを止める。フラットブレードと呼ばれる王国式剣術の技だ。

 ドッ!という音と共に、影が転倒した。

「ちっ……何もんだてめぇ……」

 太い男の声。敵意を察知。対象を敵と判断。

「赤獅子騎士団第13師団隊隊長、フラッド・クレセントウッド」
「なっ……やべぇ!」

 逃げる。だが、男の足はさほど速くはない。
 間合いを素早く詰め、並ぶ。
 もたつく足に足払いを掛ける。
 面白いように敵は転倒し、もがき続ける。

「こんな時間に何をしているんですか。
 家の住人ならば玄関から出ればいいでしょう。
 ソレが出来ない理由があるのならば……。
 私がこの場で尋問しても構わないのですよ?」

 剣を突きつけ、男の動きを完全に封じる。

「ど、ドロボー!ってあら?」
「早く憲兵を呼んでください。私が押さえておきます」



 数分後、憲兵隊が駆けつけ、男はお縄となった。

「ありがとうございます。お陰様で主人の形見、盗られずに済みました」
「いえいえ。偶然通りかかって良かったですよ。
 盗られた物は、ちゃんと確認できましたか?」

 女性はよく見れば、先日亡くなられた男爵の、夫人であった。
 男爵は確かメガネ集めが趣味で、様々なフレームやレンズを蒐集していた。
 狙われたのは、貴金属細工のフレームと、アーリマンのレンズから精製された魔法レンズ。
 何故趣味を知っているかって?
 それなりの地位にある家同士っていうのは、付き合いがあるものです。

「ええ……あら?これはウチの物ではありませんわ……」

 そう言って夫人は、一つの指輪を私に差し出してきた。

「え……いえ。私が貰ってしまうわけには。
 だれかが盗られた物かもしれませんし」

「とは言っても、私が持っていてもどうしようもありませんし……。
 もう憲兵隊も引き上げてしまいました。
 せめてものお礼として受け取ってください」

 なんというか、完全なる善意というのは拒みがたい。
 私は、その指輪を受け取った。


 街灯の下で、指輪を見てみた。
 紅い石がはめ込まれた指輪で、特に貴石や宝石という訳でもない。
 いわゆるただの紅い石だ。
 リングの部分も貴金属かと思いきや、ただの真鍮であった。
 つまりはおもちゃ。子供がお祭りなどで使う、そんな玩具であった。

「でも、一日一善の三文の得というところですかね」

 そして、ふと、リングの内側に目がいった。
 しかし、所々削れていて、ハッキリとは分からないが。

「何か彫ってある……
 “F……t……Shan……”?
 ――シャ……ン?シャン」

 シャン。
 その言葉がキーワードだと言わんばかりに、指輪からまばゆい光が飛び出した。
 飛び出した光は徐々に収縮し、集まってゆき――!
 人の形を為していった。

「いぇーい☆指輪の精霊、シャンちゃんでーす♪
 出してくれたお礼に、3つだけ願いを叶えて上げちゃうゾ☆」
「……は?」

 精霊?シャン?何?羽?飛んでる?
 3つの願い?ナニソレ?ギャグ?

「アレ?ウケなかった?」
「い、いや……なんていうか……」

 沈黙が耳に痛い……。

「はんざいだ……」

 なんていうか、世間に憐れみの目で見られる犯罪だ。
 精霊さんは体長20lm(20cm)くらい。まぁそれはいい。
 まぁアレだ。
 何も着ていませんでしたとさっ!

「あ、……あはははは。ね、ね。何か着る物ない?」
「とりあえずこれでも巻いてください……」

 ハンカチを渡してみた。
 とりあえず無意味に後ろを向いて紳士的に見なかったことにする。

「はぃっ。もーいーよー♪」

 ハンカチを体に巻き付け、なんというか湯上がりな感じだ。
 ギリギリセーフだな。
 何の?とかは却下。あまり考えたくない。

「しかし……どうするかな……このまま置いていくわけにも行かないし……」
「じゃぁ連れてってよマスター。そうそう。マスター名前は?」

 マスターと呼ぶ割には、相応の態度を取る気は無いようだ。

「フラッド。フラッド・クレセントウッドだ」
「うんうん。私シャン。指輪の守護精霊なのだっ。
 はいっ。お互いに名前を聞いて契約かんりょー♪
 フラッド~。取り合えず私、服がほしいなー」

 厚かましいというかなんて言うか……。
 そんな何年も一緒にいる様な話しかけ方をしないでほしい。
 というか。
 みんなにどうやって説明するんだコレ……。

 気を重たくしながら、私は居住へと足を向けるのだった。
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by creatle | 2007-02-15 23:04 | 外伝:蒼き空に紅き御旗を


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