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砂塵の記憶

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2010年 09月 02日

青き空に赤き御旗を 番外編Ex1

――。



「そこに隠れているヤツ!出てこい!」

 マズった……リンクシェルへの応答に気を取られすぎたようだ。

「しまった……見つかった。団長。何とか情報を引き出して、退却を試みる。
 戦闘に入るため、通信を切る」

 リンクパールのスイッチを切り、道具袋の奥へと仕舞う。
 万が一、捜索されても見つけるまでは時間が掛かるだろう。

「どうした。出てこないのか?仕方ない。弓兵部隊。前へ」
「いや、出るよ。そう急かすな」

 草むらを出て行くと、出迎えたのは黒鉄製の大剣を背負った大柄の剣士だった。

「どうも諜報員ってツラじゃねえな。おまえ……戦士だろ」
「それはどうも。バストゥークの大使様のツラを拝んでみたくてね。
 どうだろ?見物するつもりが前に出すぎたってことで見逃してくれね?」

 軽口をたたきながらも、周りを見回す。
 チョコボに騎乗しているのが3人。おそらく士官だろう。遠目でも衣服が違う。
 戦士系重装備歩兵が7名。魔道士系が8名ほど。後5名ほど、長弓を持っている。
 1個中隊クラスの兵力と分析した。
 すると剣士はニヤリと笑い、背負っていた大剣を引き抜き、青眼に構えた。

「そうだな……口で言っても無駄だな。お互いによ。
 虚にしろ、誠にしろ、俺たち戦士同士が語るのは――こっちだろ?」

 そして気づけば、いつの間にか、バストゥーク軍勢により囲まれていた。
 これは逃げられない。助けも呼べない。

「……一戦、どうだい?赤い戦士さんよ」
「……上等」

 一歩踏み出し、背負っていた大斧を取り出す。
 が、そのとき、マントを払うような音が聞こえた。

「た、隊長!?……了解。どうぞ」

 チョコボに騎乗していた3人の男のうち、一人が下鳥し、近づいてきた。
 男の特徴……かなり異様だ。
 頭防具はフルフェイスのアーメット。バイザーが黒塗りされていて素顔が見えない。
 胴防具は蒼いガンビスン系の服。確かアレはバストゥーク軍上級士官が着る礼服だ。
 背には蒼い下地にバストゥークの紋章。共和国軍マントだ。
 手足には重厚な金属製防具。戦士やナイトがよく付けているような重装備。
 腰には重装備に似つかわしくない、飾りもない小剣が一振り差してあった。
 片手剣装備だが、盾は持っていない。
 重装備なのに軽装。非常にアンバランスな着こなしだった。

「へぇ……隊長さんか。お偉いさんが相手してくれるとは嬉しいね。
 どういうつもりだ?士官は士官らしく、後ろで見ていればいいだろうに」

 男は答えない。
 否。その返答か、左足を前に半歩。半身に構えている。

「そうかよ。いいぜ。エモノを抜きな。それくらいは待ってやるぜ?」
 男は答えず、動こうともしない。

「抜かないのか?なら、遠慮無くいくぜ?」
 男は答えず、動こうともしない。

 間合いを詰める。いつ、どんな武器が来てもおかしくないように慎重に。
 周りの兵達は見守る算段のようだ。
 誰も武器に手を掛けず、じっと俺たち二人を見ている。

 ――間合いは7歩。長弓、銃ならば支配すべき間合い。男は動かない。

 ――間合いは6歩。短弓ならば完全に支配しうる間合い。男は動かない。

 ――間合いは5歩。投擲ならば致命傷を与える間合い。男は動かない。

 ――間合いは4歩。槍ならば近付かせず勝利しうる間合い。男は動かない。

 ――間合いは3歩。ここは――!

 一気に斧を振りかぶる。そう、ここは両手斧の間合い!
 相手のエモノは見たところ小剣。退こうが踏み出そうが、斧を防ぎきれない!
 十中八九、この一撃を回避するならば後ろに下がる。
 前に踏み出すには、間合いの調整時間が足りない。しかも抜刀もまだだ。
 抜刀、防御と2手かかる。既にこちらは振りかぶっている。あと1手足りない。
 横に避けるのは対策済み。
 こちらの初手は大斧三連撃≪レイジングラッシュ≫
 初撃は横薙ぎ。横に飛べば確実に当たる。

 そして、後ろに回避するのを予測。一歩分さらに間合いを詰める。
 この地点で自分の勝利は確実!俺の技量を甘く見た報いだ――!
 と、勝利の予感に笑みを浮かべた瞬間。

 ――大地の振動、瞬時に二回。

 男の姿が一瞬視界から消え、すぐに視界の中に入ってきた。
 跳躍し、一気に間合いを詰め、目の前に地面を陥没させて着地する。
 そう、その間合い――半歩!
 間合いと挙動を見れば一目瞭然。
 そう、半歩の間合い、それは――

 ――格闘(素手)の間合い……!

 己の失策を悟る。
 大斧の間合いは広く、相手を近づけさせない利点がある反面、
 懐に入られると途端に武器の死角となる。
 威力は半減どころか、10分の1にもならない。
 だが、これを凌げなければ戦士の名を張ってはいない。
 初撃のレイジングラッシュは変更無し。
 一撃目で弾き飛ばし、間合いを確保、二撃目、三撃目を確実に命中させる。
 あくまで相手のエモノは小剣。
 そう、この間合いはあくまで、こちらの裏をかく為の奇襲に過ぎない――!

「レイジング――!」「夢想――」

 またしても、さらに上回った失策を悟る。
 コレはマズイ!
 構え、そしてこの拳気!間違いない。これは夢想阿修羅拳……!
 拳を極めし者が至る境地――瞬時8連撃!。
 小剣はフェイク(偽装)。重装備もフェイク(偽装)。
 重厚なガントレットはまさにこの為に。
 重厚なグリーブは蹴撃の為に。
 完全に前提を覆された!間合いも支配され、初撃は完全に無力化されている。
 こういう戦いをする者に1人、心当たりがある。
 演技じみた虚構で相手の隙を突き、力量差をひっくり返す人物。
 だが、彼は――!
 彼である筈が――!

「ラッシュ!」「阿修羅拳」

 ――第一撃。横薙ぎ。
 水平に振り出された大斧だが、今の間合いでは死角に入っている。
 故に柄の部分で強打し、間合いを突き放す!
 必ず、回避、あるいは殴打によりある程度の間合い変動はあるはず!
 が、しかし。予想を遙かに上回る対処法をしてきた!
 振り出された大斧の柄を拳打2撃で打ち払われる。間合いが変動しない!?
 迎撃された!?

 ――焦りを押さえ、第二撃。垂直の振り下ろし。
 水平薙ぎを打たれ、勢いを落とされたまま、円運動で上段に流す。
 が、その隙に左肩へ1撃、左肘に1撃貰った!
 左半身に激痛!その痛みでさらに威力が半減。力のない振り下ろし!
 ご丁寧に、2撃を柄に打たれ、さらに弾かれる。

 ――奥歯を噛み砕き、祈るような第三撃。逆袈裟斬り。
 バランスはとうに崩され、威力は殺されたも同然。
 さらにご丁寧に柄に2撃。とうとう最後まで迎撃され尽くした……。
 終われない。
 ――このままじゃ終われない。戦士のプライドに賭けても!

 ――レイジングラッシュ、意地の四撃目。体を回転させてバックスイング……!
 夢想阿修羅拳は八連撃。もはや打ち尽くした筈!
 そして

 金属をはじき飛ばした、甲高い音が響いた。

 肩越しに見れば、頭防具を破壊したようだ。
 男のバイザーがはじき飛ばされ、その中から黒い瞳がこちらをのぞいている。

 すると、男はやや後ろを向き、手で何かの合図をした。
 後ろに控えていた従者らしき女性が、何かを手に持って前に出る。
 あれは……テンプルクラウン。高位のモンクが付ける礼装の一つだ。
 どうやら戦闘中、さらにはこのオレの目の前で。
 頭防具を取り替えるつもりらしい。

 斧を握りしめる。
 戦闘中にも関わらず構えをとき、こちらを気にしない態度。
 おまえなどいつでも倒せると言わんばかりの余裕か。
 ――その余裕、後悔させてやるぜ……!
 そのツラ、さらした時がおまえの最期だ――!

 男はアーメットを両手で外した。
 そして……!

 手にした斧は終ぞ、振り下ろされる事はなかった。

「――う、嘘だろ……?」

 その素顔は知っている顔だった。
 相対して戦った事もあるし、肩を並べて戦ったこともある。
 名前も、戦術も、癖でさえも理解している。
 そう、それは相手も同じ事。
 つまり、この戦いは。技量戦では無く、最初から情報戦。
 弱点も何もかも分かって居るはずなのに、こちらが知る情報は一切効果がない。
 それはそうだ。その弱点は知っていても、相手が誰なのか分からなければ意味がない。
 そして相手は、オレが誰なのか知っている。
 相手にすべての情報を握られた状態だったのだ。
 この一戦は、オレは、戦う前から負けていた――!?
 いや、今考えるのはそれではない。
 何故。
 何故おまえがここにいる――!

「そんなに私がここにいるのが不思議かい?――カイル」

 独特の笑みでこちらを見返す。
 そして、テンプルクラウンを頭に装着し、
 右手の指を二本、こちらに向け、口を開いた。

「えてびへさ。うにばふぬそ」

 周りの兵士達が首をかしげる。
 しかし、この意味不明な言語を、混乱した頭でも理解した。
 作戦行動時に使っていた簡易暗号。カエサル暗号だ。
 右手、つまり2字戻せ。
 【いちどひけ。あとではなす】つまりは、【一度退け。後で話す】

 気がつけば、後ろは囲まれておらず、すぐ逃げられる状態になっていた。
 とにかく走る。今は、撤退するしかない。
 走り始めても、後ろから追ってくる気配は無かった。


「いいのかい?隊長。逃がしちまって」
「ああ。これも予定通りだ」
「そうかい。それじゃ、行こうか。――ラドル隊長」

by creatle | 2010-09-02 02:36 | 外伝:蒼き空に紅き御旗を


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