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砂塵の記憶

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2008年 06月 19日

蒼き空に紅き御旗を 18

 薄暗く、窓さえない小さな小部屋。
 そこには大量の本棚と大量の書物が押し込められており、一種異様な雰囲気があった。
 動く物は一つの蝋燭と、わたしだけ。

 寝台と、本達と、机と、蝋燭と、わたし。
 この国の住民は、これだけ。
 ここが、わたしの国。
 ここが、わたしのセカイ。
 ソトには出られず、私は今を、此処しか知らない。
 時折、ソトの人が食事をわたしに運んでくれる。
 その人だけが、ソトと、この国を結んでいる。

 望まれずにこのセカイにやってきて。
 私にあるのは一つの思い出。
 たったそれだけ。
 会いたいと思っても、そこにあるのは蝋燭の現実。
 希望の光は遙か遠く。
 遠くの景色は霞も見えない。

「こんなセカイなんか……!」

 わたしは呟く。このセカイの真ん中で。

「いらない……!」

 夢見たことは幾千度。
 でも未だ、王子様は迎えに来ない……。








 午後2時。サンドリア港の飛空艇発着所。
 サンドリアは内陸の国であるため、海を持たない。
 しかし、ルフェ湖と名付けられた巨大な湖が、飛空艇の発着所として最適であったため、
 交通の便に於いて、他の国に後れを取らない施設を持っている。
 入国チェックを終え、出口に向かうと、とある人物が私を待っていた。

「フラッド様。任務お疲れ様でございました。
 クレセントウッド家一同、お待ちしておりましたぞ」

 深々しく一礼するのは、私が幼い頃から、クレセントウッド家の執事をしている、
 ロンバガーデンさんだ。
 ここ3年ほど実家に帰っていないため、3年ぶりということになる。

「ロンバさん。お久しぶりです。
 しかし珍しいですね。――なにかあったのですか?」

 便りが無いのは元気な証拠。
 しかし、裏を返せば、会いに来たということは何かあったということだ。

「はい。申し訳ありませんフラッド様。
 落ち着いてお聞き下さい。
 ――旦那様が亡くなられました」
「父上が!?しかし!そんな兆候は――!」
「旦那様からは、決してフラッド様達には知らせるなと。
 国を護り、夢を追いかけ、国を作っていく邪魔をしてはならないと。
 ひと月は黙っているようにと言われましたが……さすがに」

 ロンバさんは首を横に振り、そして、決意したように話し出した。

「旦那様が亡くなられたことにより、爵位を、フラッド様に継いでいただきたいのです」
「爵位って……!兄上は!姉上は!」

 私には兄と姉が居る。後継の話ならば、そちらから行くはずなのだが。

「ルシッドフェイド様は家を飛び出して冒険者になってしまわれた身。
 旦那様が亡くなられる寸前に帰ってこられたのですが。
 旦那様と2,3言、話されて、すぐに旅立たれ、消息不明でございます。
 フォルラータ様は既に嫁がれた身。クレセントウッド家を継ぐのはお門違いだと」

 兄は私が10歳の頃に父上と大喧嘩をして家を飛び出し、放浪の旅へ。
 姉は私が赤獅子騎士団に参加を決意したあたりで侯爵の家へ嫁いでいる。
 必然的に、私が継がなければならないということだ。

「少し、時間を下さい。すぐにこの赤獅子騎士団を抜けるわけにもいきません。
 後継も、何も決まっていないのです。
 ロンバさん。ひと月黙っていろと言われたのならば、それ相応の策があったのでしょう?
 爵位の話、そこまで引き延ばしておいてください。
 ――それまでには、話をつけます」

――ここが運命の分岐点。
そしてこれから、赤獅子騎士団13師団と、私の運命が、大きく狂い始める元凶となった。

by creatle | 2008-06-19 02:13 | 外伝:蒼き空に紅き御旗を


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