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砂塵の記憶

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2006年 12月 04日

外伝~潮騒の鎮魂歌~14

午後3時。太陽も高く、されど傾き始めた船の上。




 


 俺たちは、まだ航行していた。
 海賊達は、既に出現ポイントを把握しているらしい。
 そこへ向けて、今急行している最中だ。
 海賊が用意した船を使い、俺たちは甲板上に待機している。
 甲板は黒鉄で補強され、打ち付けられたリベットが重装鎧にも見える。
 キャプテン曰く、接弦するため必要なんだそうだ。
 海賊の襲撃パターンに、接弦して板で橋渡しし、侵攻するというものがある。
 主に対武装船団用の戦略なのだそうだ。
 遠距離の魔法や弓矢、銃撃では襲撃しきれずに逃してしまう場合が多いらしい。
 アンデッドモンスターを召還して襲撃させる部隊もあるそうだが、
 結局向こう側には侵攻できず、嫌がらせ程度にしかならないらしい。

「はぁ……」

 ため息を、一つ。
 なんだ……落ち着かない。手を開けば、潮風が妙に、手に冷たい。
 手に汗をかいている。

「大部隊戦は、初めてかい?大丈夫だ。オレ達が付いてる」

 羽根付きの紅い帽子が潮風に揺れる。
 確かこの人は、赤獅子騎士団13部隊の中でも、最強と言われている。
 ――たしか、メビウスさんだ。
 少しほりが深くなった横顔と、前を見据えるその瞳は
 ――どれだけの戦場を駆けてきたのだろうか。
 
「オイラとメビさんが居れば鉄壁完璧。まかしときなって」

 白い法衣を優雅に着こなす、長身のエルヴァーン。
 リュウと呼んでくれと、フランクに話しかけてくれた、
 それでも、部隊の生命線の一と呼ばれた男。

「大丈夫。私が居る限りは、私以外の物にそよ風一つ当てはしない。
 目をそらすことさえも許さぬさ……」

 ロフェイトと名乗った、白銀の鎧の騎士。
 剣も、盾も、鎧も、その気品さえも純白。
 部隊の中では、其の眼は魔眼と呼ばれた物ではないかとも噂される。
 一度見据えた相手は、“眼を逸らすことが出来なくなる”らしい。
 全てを魅了する剣閃と、相手を縛り付ける魔眼と。
 人は彼を、純白の悪魔と呼ぶ――。

 フラッド隊長は最初に言った。
 “最高の盾と護りを用意しよう。今日から君が、最強の剣だ”と。
 そして、増援としてやってきたメンバーも、一人一人が一騎当千。
 一人、フラッド隊長と同じ歳だと言っていた少女が居た。
 だが、あの雰囲気と、小隊指揮の手際。
 どんな戦いをくぐり抜ければ、あの様なオーラを纏えるのか。


 実際、此方の戦力は、俺が居る部隊がナーシャを含む5名と、G率いるハンター部隊。
 俺たちは先頭を走る船に乗っている。
 やや後方、二隻並んで航行するのは、少女……コトナリアが指揮する第13部隊魔法兵団。
 それと、フラッド隊長が指揮する赤獅子騎士団第13部隊の本隊。
 それぞれの船には、このガレー船の提供元である海賊の魔道士達が控えている。


 相手はたった1匹。されど、目的が在るのならば戦力は妥協しない。
 出陣必勝。
 戦力を以て戦う者の、覚悟と心構えを。
 平和の中で生きていた俺は、剣の経験よりも、濃く実感していた。

『こちらはフラッドです。全軍、聞こえますでしょうか。
 ――そろそろ敵活動領域に入ります。ハンター部隊は索敵を重視、本隊は待機、
 魔法兵団はブリッジ付近に待機し、あらゆる状況にも対応できるようにお願いします。
 メビウス小隊は強化魔法の詠唱を始めてください』

 赤い魔法真珠から、フラッド隊長の声が聞こえる。
 メビウスから貰った魔法真珠は、“リンクパール”というものらしい。
 どんなに距離が離れていても通話が可能な、便利なアイテムだ。
 リュウがプロテアとシェルラを唱え始めた。
 詠唱完了と同時に、暖かな光が自分を包み、表面に留まる。
 メビウスが、聞き取ることが不可能な高速言語で魔法を詠唱し、リュウに魔法を掛ける。
 術者の気力を高め、声に出して詠唱することで発動率を浮き上がらせるという
 “詠唱”の常識は此処にはない。発動は必然、詠唱はトリガーでしかない。

『こちらG。目標と思わしき影を確認。
 お前ら……準備は――いいな?』
『こちらキャプテンホークだ。偉大な英雄の名前をパクってるとかツッコミ不可だ!
 敵影を確認。どこかに掴まってろよ?投げ出されるぜ!?
 各操舵手に告ぐ!海賊の矜持、此処で見せろ!A戦列だ!
 しくじりやがったらその役立たずなサオを引っこ抜くぞ!』
『押忍!』

お下品……

 外に出る。そして、そいつは、




――そこに、居た。




 動かず、じっと此方を見据えていた。
 其の目は、嗤っている様にも見えた。
 体は、前よりもさらに黒く、金属質に、そしてグロテスクに。
 禍々しい一つの災禍として、そこに在った。

「いくぞおおおおおおおおおおおおお!!
ここだあああああああああああああ!!」

キャプテンホークが絶叫する。
リンクパールなど意味すら持たない。

 全船舶がブラックホラーを中心に急旋回して回る。
 そして――!

「ぶ、ぶつかる!?」

 ――!
 山が砕けてもそこまでは出ないだろう音が響き渡る。
 黒鉄で補強された船体同士がキキキーーーーー!と金切り音を立てる。
 船体が激しく揺れ、辛うじて倒れ込んで、海へ投げ出されるのを防ぐ。

 船体が3隻、敵を囲むように三角形に固まった。
 そう、海上で、陸上と同じフィールドを作り出したのだ。

『全軍に告ぐ!是より戦闘を開始する。
メビウス小隊はロフェイトを中心に展開。
魔法兵団はブラックホラーに神聖魔法を連打!
本隊は神聖魔法を打てる者は残らず打て!
それ以外の者はメビウス小隊のフォローを行え!
是は総力戦である!』


by creatle | 2006-12-04 23:52 | 外伝:潮騒の鎮魂歌


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