2006年 11月 08日
……――。 そして、沢山の月日、否、年月が過ぎ去りました。 もう季節の巡りを千ほども数えたでしょうか。 ――旦那様!おやめください!このような危険な事は! ――爺。私には……この国にはもうコレしか無いのだ。 一人の、華奢な青年が剣の元を訪れました。 彼は、国の中でも指折りの魔術師でした。 ――過去の聖遺物に縋るまでに堕ちた……だが、全てを灰燼へ帰すよりは――! 既に高名な英雄など、過去の物。 今、国は大変な危機に瀕していました。 新たな王を認めない諸侯、ソレを潰さんとする王族。 王国は、暗黒時代へと突入していたのです。 同じ騎士団、果ては、同じ家の者同士が戦う、紛争。 自分が切り捨てた相手が、自らの兄弟というのも珍しくない、荒れ果てた紛争でした。 青年はそっと、白く細い手を剣に伸ばし、剣の解析を始めました。 ――この魔術式……失われた筈の継承魔術……。だが、この術式では明らかに不足だ。 青年は、持っていたナイフで剣に紋様を刻みました。 複雑なライン交差を消し、平行なラインと交差するラインを整えて行きました。 ――コレで……よし。さぁ……ロックハートよ。私にその力を見せよ……! 継承が、始まりました。 青年の魔力がとても大きかった事もあり、継承は無事に終わりました。 ――貴方は……こんなにも哀しい歴史を記録してきたのですね。 神秘の継承をもたらす、されどヒトの人生を食い潰す魔剣。 さぞ、つらかったでしょう。 私が、貴方の真の目的を継ぎましょう。正しく。私達が。 そして、剣はその強大な力と、連綿と受け継がれた剣技と経験で、 様々な功績をもたらしていきました。 今までの継承は、継承者に経験値を上書きするというもの。 新しい魔術刻印は、継承者に経験値を加算するというもの。 そして、彼の血筋が有数の魔力容量であったために。 剣は様々な技能、経験、魔力を蓄えていくことが出来ました。 剣と共に生き、聖剣に選ばれた血筋。 守るために振るうその力、まるで剣の如しだと。 国の王は、彼らに名前を授けました。 生きている剣――ソーディアンの名を―― しかし、力は戦乱を呼び、戦乱はさらに力を呼び。 ソーディアンの血筋もまた、聖剣の器としての特性を持ち、 生命として安定し始めました。 そして現れた、最も力を持ち、剣も呼応した、“最強の器”――。 クレサンドロウ・ソーディアンの歴史が始まったのです。 彼はまず、紛争の最前線に立ち、参戦した戦いを全て勝利しました。 彼の親友もまた、名剣を携えて彼とコンビを組み、数々の戦果を上げました。 そして有力な王族は、中から一人の王を立て、国を纏めました。 しかし、またソレを良しとしない諸侯が軍を挙げ、紛争を起こしました。 クレサンドロウとその親友は、忠誠を誓ったそれぞれの諸侯のため。 とうとう敵同士として対峙することになりました。 しかも、あろう事か、 クレサンドロウは王族側の大将。親友は、造反側の大将として。 一騎打ちにて勝敗を決する事になりました。 其の戦いは、まるで演舞の様だったと、伝説に在る。 歓声を上げる者も、罵声を浴びさせる者も無く、全てが静まりかえり、見守った死闘。 剣の軌道は光を帯び、幾重にも重なり、 まるで、妖精が無尽に舞っているようだとまで謳われた死の演舞。 そして、とうとう決着が着きました。 クレサンドロウの打突、“パワースラッシュ”が親友の心臓を捕らえたのです。 ――ゼノス。何故……何故避けなかった! ――クレサンドロウ……俺はさ。最期がお前で良かったと思ってるぜ。 もし、万が一俺が勝っちまったら、また歴史は繰り返しちまう。 だからさ。今度こそ、終わらせないといけないんだ。 そんな顔をするなクレサンドロウ。 誇れ……!お前は、国を護ったんだ……!騎士の本懐だろ……! 泣くなって言ってるじゃねーかっ……約束し……てくれ……こ―― ――ゼノス……?約束は何だ……!?言えよ!答えてくれよ……!ゼノス……! 約束は、クレサンドロウの耳には伝わりませんでした。 ですが、剣はちゃんと受け継ぎました、魂の叫びが、剣に届いたのです。 『この国と、みんなを、守り抜いてくれ。お前になら出来る。 大切なものを護る剣となれ。決して、その志崩さぬように』 クレサンドロウは、剣に呪いをかけました。 絶対に、切れることがない刃へ。 しかし、どうしても力が必要になるのならば。 この剣の『真名』に『護る』と『誓う』ことを。 彼は、『満月』の下で誓いました。二度と悲劇が起こらないようにと。 彼は野に下り、市井に紛れ、姿を消しました。 後に国は、常勝龍王、ランペール王が統治し、今のサンドリア王国と成ったのです。 「これが、この剣の最後の記録。次の記録は、ドレッド・ソーディアンの歴史となる」 「……」 「既に、満月の夜に誓いは成された。 後は、『真名』を唱えるだけ。ソレだけで、継承は成る。 ドレッド……君に、その器があるかな? 数百、いや、殺した分を含めて数千、数万の命を。受け止める覚悟が」 黒い闇の中から、一人の青年が姿を現した。 知らない、否、よく知っているカタチだった。 そう、その姿は、俺……違う。俺によく似た人物――! 「ドレッドよ……もし、この剣を捨てるならば、まだ人の道へ戻ることが出来る。 しかし、この剣を執ってしまったら、往く道は前のみ、修羅の道。 平和を、日常を望まれて生まれてきた子よ。 闇へ堕ちる覚悟が在るならば、剣を手に取れ」 「剣はとる。だけど、俺は闇になんか堕ちない。 俺は、護り続けると誓った。ナーシャの心を。ナーシャの笑顔を。 騎士の誓いは絶対だ。例え、“世界”でも、“神”でさえも。破ることは許さない」 「甘いことを。剣の道は修羅の道。 強大な力を手にした者が、人並みの幸せなど掴むことなど出来ぬ。 尚も、その道を歩むと言うのなら――」 「歩むさ。だからこそ、騎士として、俺は誓ったんだ」 「その甘さ、覆せる程の力を見せてみろ――!」 いつの間にか、青年の剣がその手にあった。 そして、俺の目の前にも、剣が突き刺さっている。 「受け止める気がないのならば、そのまま覚めるといい。 剣は再び呪いにより、力を失う。 その剣は力。武器に非ず。 愛しき者が居るのだろう? 彼の人の、目の前で化け物に成るも、日常に生きるも、意志を徹すのも。 今此処で、全てが決まる」 「誰に口聞いてやがるんだ……? 俺は……俺はっ――! ドレッド・ソーディアン!聖剣の担い手、そして! ナーシャを護る、唯一無二の剣だ!」 ≪誓いは為された。さぁ、我が真名を唱えよ――!≫ 柄に手を掛けた。 一気に引き抜き、天に掲げた。 「今、もう一度誓いを為す! 俺はドレッド・ソーディアン! ナーシャを護る、唯一無二の剣になると誓う! 例え“世界”に阻まれようとも、如何なる困難に遭おうとも! 俺は、俺の意志を貫き徹す! 応えろぉっ!ロックハート≪岩石の如き騎士の誓い≫ォォ!!」 ミスリルの被服が砕け散り、剣の刀身が露わになる。 青白く瞬き続けるその光は星の如し。 流れ込んでくる様々な経験、知識、魔力。 ――魔力供給を開始。担い手、登録変更。アカシックレコード変更。 ――魔力充填率22%。付近にマナ接続アダプターを確認。接続……! ――接続完了。残存貯蔵量、無限大。供給量、無制限。 ――魔力サーキット、分断箇所を確認。修復開始……終了。 ――未開通箇所を数カ所確認。疑似回路生成。問題なし。――現界開始。 ――現界疑似回路、神経回路と接続……反応精度、99.7%。 ――未開通箇所、強制展開……成功。疑似回路と接続……問題なし。 体の中がグチグチと音を立てて改変される。 そして、しばらくして音が止み、体中に力が漲ってくるのが分かった。 「継承は為された。さぁ……君はまだ、意志を貫き通すことが出来るかな――?」 「当然だ。言ったろ?俺は、如何なる困難に遭おうとも。俺は、意志を貫き通すと」 「よくぞ言った我が孫よ。そして最後だ。来るがいい――担い手よ」 撃鉄が、落ちる。 剣は、否、“俺“は一つの技を俺の中に提示する。 嘗て、神技と言われ、されど人が為した奇跡。 全魔力を剣へ送る。剣は輝きを強め、キラキラと光の粒が剣から零れる。 振るう軌道は唯一筋。 馬鹿正直に唯、上から下への一文字。 その名、神話に一つ、刻まれた神々の技。 ――グラウンドストライク―― ……気付けば、既に残心を取っていた。 青年……否。俺の、祖父だったものを切り裂いて。 「そうだ。それでいい。 残心とは、相手の死を受け入れる覚悟のこと。 最後の最後で、やっと覚えてくれたな。ドレッド。 じいちゃんは嬉しいぞ……」 「じいちゃん……俺は……」 「良い。それで良いのだ。さぁ、夢から覚めよ。 愛しき者が待っておる。 儂は、剣の“経験”の中で、夢を見続けることにしよう。 さぁ戻れ。ドレッドが愛した、時間と空の元へ――」 ・ ・ ・ 「――さん」 ・ ・ 「ッドさん――!」 ・ 「ドレッドさん!」 「――ああ……。戻ってきたぞ」 ナーシャが、俺の手を握り続けてくれたようだった。 そして……俺は其の風景の中で、一つの既視感を感じた。 「大玉の……ルビー……!」 「えっ……?イヤリングの宝石は、確かにルビーですけど……」 そう、眼には見えないが、確かに魔法刻印がされている宝石だった。 体中から、魔力が漲っているのが分かる。 夢の中で、確かに俺は剣から“経験”を受け継いだ。 そして、記録から写された記憶。大玉のルビーが、ここに、確かにある! 「大丈夫だ。この戦い……勝てるぜ。ナーシャがいれば」 「え、ええ。あ、そうでした。ドレッドさん。もうすぐ、作戦領域です。 行きましょう。そして、ちゃんと終わらせましょう。みんなを」 俺は剣を背負うと、ナーシャと共に船室を出た。 もう出港してから丸一日が過ぎている。 これから、ヤツを捜して……倒すのだ。 ナーシャも、しっかりとした足取りで歩いている。 俺たちは、甲板へと向かった。
by creatle
| 2006-11-08 02:23
| 外伝:潮騒の鎮魂歌
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