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砂塵の記憶

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2006年 10月 06日

外伝~潮騒の鎮魂歌~11

宿に戻ると――。









だれも居なかった。ってダメじゃん。



 一方その頃。



「アレクサンドライト……貴方はいつも強引なのですね」
「むぅ……」

 ――マウラの宿、大食堂――の前の廊下。
 大食堂の中では、フラッド達が明日からの日程を話し合っている。

「ウィンダス軍とサンドリア軍の共同防衛作戦の時もそう。
 マナフィール引き抜きのときの懸案もそう。
 いつもいつも見ていましたが……。
 勝手に決めてしまうのは直らないのですね」
「うぅ……し、しかしキミが責められるのを黙ってみていたくは無くてだなぁ……」
「それに関しては感謝しますが。
 アレクサンドライト――あの二人、幸せにはなれませんよ?」

 ラクチェは目を閉じると、出口へ歩き出した。

「ラクチェ……」
「種族の壁、厚いですよ。現に――幾人もソレで引き裂かれた者たちを知っています」

 ラクチェの声が強く響く。

「マナフィールの事を聞いたとき、迷いました。力ずくでも止めるべきなのか。
 あの子に試練を与える意味でも、許すべきなのか。
 シャントット博士は、興味が御有りで無いようでしたし、
 セミ・ラフィーナ様も何も言わなかった。
 私は、最後まで反対しましたが……貴方ときたら」
「……私は、幸せにすると誓った。この誓いは、必ず徹す。
 そして、もし、彼らが迷うなら、私が導く」
「――そう……ですか。あのときと、同じ事を言うのですね」
「ああ。そうだ」
「それだけ聞ければ、十分です。あの子達を、見守ってあげてください」

 ラクチェは扉を開け、歩みを進めた。

「ラクチェ」
「なんでしょう?」

 ラクチェが振り向かないまま、静寂が一瞬降りた。

「すまない――」
「――っ!」

 ラクチェは外に出た。
 ラクチェは空を見上げ、ぽつりと呟いた。

「臆病になった――私の負け、か。アレク……」



「それで、どうする団長。俺達だけじゃ、またあのときの二の舞だぜ?」
「ええ。分かっています。明日、リンクシェルに緊急招集をかけようと思います」
「しかし、水上移動力が、あの汽船だけだから……ちょっと心許ないかな」
「そこが問題なのですが……とりあえず、あの汽船を直しましょう。
 全てはそこからでしょうね」

 フラッド、G、タートルが意見を交わし、これからの対策を話し合っていた。
 サンドラはつまらなそうに、椅子に座って足をブラブラとさせている。

「どお?なんとかなりそ?」

 マナフィールが陽気に部屋に入ってきた。
 手にはグレープジュースとアップルオ・レ。

「えへへー。煮詰まったら飲みなさい」
「じゃぁ頂きます」

 3人同時にジュースを手に取り、一斉に飲み始めた。

「あららー……だーいぶ煮詰まっちゃってんのね。
 そんな貴方たちに朗報よっ。さ、入ってらっしゃい」

 マナフィールの声とともに入ってきたのは、救助した海賊だった。

「ん……?彼らがどうかしたのかい?」

 Gが怪訝そうな顔で呟いた。

「ああ……二日後に、俺たちの迎えが来るらしいんだが……。
 ボスが敵討ちのために、3隻ほどガレー船を出してくれるらしいんだ。
 マナフィールの姉御がボスに交渉して、共同戦線を張ることになった」

 マナフィール、既に姉御扱い。
 しかしそんな事はどこ吹く風、3人は沸いた。

「ふ、フラッド隊長!」
「ええ!コレで、水上移動力は確保、ですね!」
「移動力、戦力は確保、あとは――」

 最大の懸案事項、ヤツの黒い装甲をどうするか。

「あ、そうそう。あの黒いのだけど、バニシュで少し剥がれたの。
 すぐ再生しちゃうんだけど、でも沢山集まれば、なんとかなるかも」

 サンドラが思い出したようにポツリと言った。
 その言葉に、フラッドは口に手を当て、考え込んだ。

「うーん……アンデッド系の防御壁なのか、はたまた別の物なのか。
 判断に困りますが、バニシュが有効だったのなら、アンデッド系で思案しますか」
「だったら、白魔道士で出撃できる者は、そっちで出撃してもらおう。
 しかし……地味な作戦だねフラッド隊長。雨だれの一念、岩をも徹すって?」

 Gのつぶやきに、フラッドは苦笑した。

「あーやっと見つけた……皆さんヒドイっすよ。帰ったら誰もいなんだから……」

 ドレッドが部屋に入ってきた。ナーシャも一緒だ。

「あ、すみませんでした。あの宿ではこういう作戦会議はやりづらかったので……。
 ――ナーシャさん。いい顔、してますね」
「えっ……あ、はいっ」

 フラッドが微笑むと、ナーシャも釣られるように微笑んだ。

「――ふ~ん……ナーシャちゃん♪その指輪はなにかにゃ~?
 さっきまで指輪は無かったと思ったけどー?ね~?ドレッドく~ん?」

 ニヤニヤと笑って、尻尾がフラフラ。マナフィールがニンマリと笑った。

「え……っと。その……ここの彫金ギルドで……作って貰いました」
「そっか。そっか。うんうん。おねーちゃんは嬉しいぞっ」

 マナフィールは何度も頷いて、笑顔のままドレッドを見た。

「あと、ドレッド君。
 二人っきりの世界はいいけど、夜に、外での大きい声はちょっと近所迷惑だぞっ♪」
「いっ!?」
「我はここに、ナーシャを護り続けると誓う~♪
 我はドレッド・ソーディアン。聖剣の担い手であるっ♪」
「うああああああああ――……」

 き、聞かれてた!マジ聞かれてた!
 し、しかも聞かれてはいけない相手だった気がする!

「ドレッド君。騎士の誓いは……絶対だよ?
 例え“世界”が認めなくても――叶える覚悟が、キミには、ある?」

 マナフィールの真剣な瞳が俺を射抜く。
 どこまでも真っ直ぐな瞳だった。
 他意は無い。ただ、その覚悟はあるのかと問うている。

「もちろんです。騎士の誓いのことも、全て、承知の上です」
「すまない。遅くなった。フラッド、作戦はどこまで立っている?」

 アレクが部屋に入ってきた。

「ん?えーっと……マナ?何でそんなに機嫌がいいんだ?
 何だよみんな。そんなポカーンとして……」
「い、いえ……えーっと、作戦ですね。
 現在、確保できる戦力として、現行赤獅子騎士団から総勢14名。
 海賊からの支援でガレー船3隻と、補助戦力。水上移動力はコレで。
 ドレッド君の参加があれば、プラス1されます。
 例の敵……ブラックホラーと命名しますが、戦闘作戦は――。
 黒いパワーアーマーは、どうやらバニシュなどの神聖魔法で解除出来る模様。
 バニシュ系、及びホーリーを乱射しての連打作戦ですね」
「連打で剥離させて、再生しきる前に叩くか。なんというか――地味だな」
「俺は参加しますよ。その為の、剣ですし」

 そう言ってドレッドは剣から鞘となっている布を外した。

「こ、これは――!」
「ほほお……あの黒い被服の下は、こうなっていたのか。
 フラッド、もしかしたら、コレは大当たりを引いたかもしれんぞ」

 驚愕するフラッド。ニヤリとするアレク。
 剣は、ミスリル霊銀の輝きと、複雑な魔法装飾が施された、宝剣だった。

「魔法印章は――“ディスペル”ですね。神聖魔法概念も刻印されています。
 もし、あの黒い鎧が魔法兵装だったら、こいつは天敵――」
「ホントだー。そういえばコレって、魔剣バルムンクと装飾が一緒だ……。
 ふるーい本に載ってたヤツ、コレと同じだったっけ。
 でも、バルムンクは刀身が真っ黒で、もっと湾曲してるから、コレは違うよね」

 Gの鑑定結果に、サンドラが同意した。

「……とにかく、コレで何とか希望が見えてきましたね。
 実際に行動に移るのは、2日後です。各自、装備点検と体調管理をお願いします。
 では、解散!」

 フラッドの号令に、全員が頷いた。

by creatle | 2006-10-06 01:21 | 外伝:潮騒の鎮魂歌


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