砂塵の記憶

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2006年 09月 03日

外伝~潮騒の鎮魂歌~9

「以上が、現段階における危険水域と、解決までに掛かる日数、その過程です」





 
 ラクチェの凛とした声が室内に響く。
 件のモンスターが現れたことで、やはり漁船の方にも注意は必要。
 ましてや、俺の船も遭遇してしまったとあれば、早急な対策が必要である。
 マウラ総督府の総督官、マウラ代表、俺、ナーシャ、そしてアレクが同席している。

「しかし、1ヶ月というのは長すぎますな。
 その間、漁業を止めろと仰るのか。
 こちらとしても、待てても1週間。それ以上は生活に支障が出てしまいます」
 
 マウラ代表が意見を唱える。
 マウラも漁業産業が主成分であり、現金獲得手段は専ら漁業だ。
 それに、さほど豊かなわけではない。むしろ貧しいと言ってもいいだろう。
 無賃金状態を続けることは実質不可能。下手すれば餓死者も出てしまうかもしれない。

「ですが、現状、本国からの討伐部隊編成、そのための水上戦力確保、物資補給。
 移送で、最低でも2週間は必要です。
 しかし、遠洋に出てしまうと、こちらも手は打てない。人命を最優先としたいのです」
「漁業に出なければ生活もより苦しくなる。
 本国からの支援も遅い。
 ならば、我々はどう暮らしたら良いのかね?ラクチェ政務次官」

 ラクチェが責め立てられる。
 ウィンダス本国側は補償の用意は出来るが、移送で時間が掛かる。
 ましてや、解決では……と、あくまで最低日数を提示している。
 だが、マウラは待つことは出来ない。

「近海漁業ではダメなのか?
 バストアサーディン、イエローグローブ、ブルーテールも十分な魚影だと思うけど」

 俺はラクチェへの非難を止めようと、こう提案した。
 だが、マウラ代表の顔は渋い。

「若い君からの意見は、確かに保留策にはなるだろう。
 だが、今は冒険者も釣りにて漁獲を行っている。
 思ったよりも、漁業による収穫は少ないのだよ。
 それに、買い付けの業者も、近海漁業の方は専ら冒険者からの買い付けが主だ。
 冒険者も漁獲することが出来ない魚こそ、我々が残る道なのだ」
「う……」

 それは自分でも自覚していたことだった。
 わざわざ遠洋へ釣りに行く理由。
 それは、マウラ代表が言ったこと、そのものだったのだ。
 冒険者は、その日の生活費を稼ぐために、釣りを行うこともある。
 業者はそういった冒険者を金銭以外のサポートで雇い、安い値段で買い付ける。
 雑事に優れた冒険者という立場、報酬が少なくてもやる者は意外と多い。
 傭兵を雇い、高価な蒸気船を使ってまで遠洋に出るのは、そう言った事情があるのだ。

「だけど!今現在遠洋にでられないのは、例のモンスターが現れたからだろう!?
 退治まで持てば、そこからはまた――!」
「そうだ。モンスターが出てから、だ。
 噂ではあるが、ウィンダス本国の新造戦艦から奪われた装置が原因と聞いたが……?
 技術者のほうにも責任があるのではないかね!?
 それさえ無ければ今の事件も起きなかっただろうに!」

 しまった――!
 責任の追及が技術者の方へ向いてしまった。
 当然、今居る技術者は――ただ一人!

「ナーシャ……と言ったか。
 まさか装置のことを知らなかったと言う訳じゃ在るまいな!?
 装置の危険性を事前に認知しておく義務が君にはあったと思うのだがね!」

 びくっとナーシャが震えた。

「わ……私は……わたしは……」

 ナーシャが俺のシャツをぎゅっと握った。
 どうしたらいいか解らない。助けて――と声が聞こえてきそうだった。
 責任と補償しか言わず、目先の生活だけを言うマウラ代表には、
 ――もう我慢の限界だった!

「責任追及は後にしろ!今はこの状態をいかに打破するかが先決だろ!?
 それとも金しか見えないか!?マウラ代表!」
「貴様に治める者の責任がわかるか!?金が無ければ市民は着いてこない!
 まず金だ!対策など後でも良い!損失分の金が揃うので無ければ、受け入れられん!」
「抑えてください!ここはそんなことを話す場ではありませんよ!?」

 黙っていたマウラ総督官がマウラ代表を抑えに掛かる。
 だが、俺はそんなことを気にもせず、聖剣に手をかけた。

「くっ……!この――!」
「まぁ待ちたまえドレッド君。マウラ代表。
 マウラ側の言い分は、待てて一週間。
 それ以降は生活も苦しく、今すぐ補償の用意と開始が無ければ、
 何らかの見返りが欲しいと言う事だな?」

 アレクが俺を制止する。

「う、うむ。そういうことだ」
「逆に言えば、1週間以内に事が済めば、特に提示した補償以外要求しないと……。
 見ていいのかな?」

 いやに落ち着いたアレクの声。
 と、アレクがこっちを見てニヤリとした。

「そう取ってもらって構わん」
「よろしいでしょう。では――」

 アレクは立ち上がった。
 マントをバッと払い、高らかに、宣言した。

「モンスター討伐の件、我々赤獅子騎士団が請け負おう。
 その代わり、それ相応の報酬を頂くがね」

 アレクはラクチェの方を見てニヤリとした。

「アレクサンドライト……それはどういった報酬で……」
「ドレッド・ソーディアン及び、ナーシャ・ナクラビチュを赤獅子騎士団に迎え入れたい」

 室内がどよめいた。
 それはそうだ。俺と、ナーシャが赤獅子騎士団に編入なんて……。

「ドレッド君は聖剣の担い手。バストゥーク領で漁師というのも惜しいのでな。
 しかし、コレが聖剣と知れば、バストゥークも黙っていないだろう。
 ナーシャ君はウィンダス軍お抱えの造船技師。水上戦力補強には必須だろう。
 だが、この二人を報酬として頂く。そうすれば、後のことは我々が解決しよう」
「し、しかし!赤獅子騎士団の入団条件はサンドリア国民であることが必須のはず!
 マナフィールは特例であったとしても――!」

 ラクチェが焦って反論する。しかし、アレクは余裕の表情で続けた。

「ドレッド君の祖父はサンドリア国民。戸籍も確認した。
 故にドレッド君もサンドリア国民である。
 ナーシャ君は……そうだな。
 サンドリア国民と婚姻関係になれば国籍を取得できるな。マナフィールと同じように。
 バストゥークも、ウィンダスも、報酬を提示し、サンドリアが労働する。
 悪い提案ではないと思うがね?どうだい?ナーシャ君」
「わ、わたしは……構いません。それで、いいのなら……」

 ナーシャが俺のシャツを更に強く握った。
 サンドリア国民と婚姻関係……俺はサンドリア国民……。
 ――えっ!?相手って俺ですか!?

「だが――!」
「いいでしょう。ですが、事が片付かなかった場合、その責任……重いですよ?
 解っていますね?アレクサンドライト卿。
 それと、慎みなさい!それでも貴方はここの代表ですか!?」
「ご決断ありがとうございます。総督官エコ・ココ殿」

 アレクはニヤリと笑い、優雅にお辞儀をしたのだった。



「ドレッド君」
「は、はい……」

 アレクがすまなそうに、俺に話しかけてきた。

「なんだか勝手に決めてしまったが、すまないな。
 収める方法が、アレしか思いつかなかった」
「いえ……俺も頭に血が上りすぎました。
 今考えると……悪いのは俺のほうですね……」

 そう、回想してみれば、聖剣に手を掛けている辺り、もう話し合いではない。

「あと……ナーシャ君の件は、本人に決めてもらおうと思う。
 ああは言ったが、実行すると、とんでもないことだ。
 戸籍上の問題、手続き等、問題は山積みだ。」
 
 俺と、ナーシャを結婚させればナーシャはサンドリア国籍になる。
 言うのは単純。だが、その間に意思があるか、と問われれば疑問である。
 ましてや、今のナーシャは判断能力が極端に低下している。

「ドレッド君。ナーシャ君の状態が回復したら、聞いてみてくれ。
 流石に……私には聞けん。ただ、伝えて欲しい。
 何時も勝手で、すまない……と」
「そんな――いえ、伝えておきます」

 アレクは頷くと、赤獅子騎士団の宿泊している宿へ歩みを進めた。

「ドレッドさん……」

 気づくと、ナーシャがすぐ後ろに居た。

「ん?」
「――えっと……デートしませんか?」

 ――間。

「え?」

 静寂が、舞い降りた。
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by creatle | 2006-09-03 02:07 | 外伝:潮騒の鎮魂歌


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