砂塵の記憶

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2011年 08月 17日

忙しくなると余計な雑念が浮かびます。




我が雑念に、ついてこれるか――!










 砂塵の記憶外伝
   第31話 ――さらば、遠い日の理想よ――







 手を赤く染める。
 吹き出した赤が服を汚していく。

「おいしくない……」

 赤く濡れたそれを放り投げる。
 水を多量に含んだタオルが、地面に落ちるような音が聞こえた。
 捻れた丸い物が落ちて赤いのがあふれたけれどそんなことはどうでもいい。

「……おいしくない。もっと違うの」

 どんなのがおいしいのだろう。
 考えてみた。
 考えるのが面倒だけど、ちょっと考えてみた。

 もう覚えている物も少ないけど、ぼんやりと、それは浮かんできた。

「ああ……あの人ならおいしそう。だってだって――」

 ――いちばんもとめていたひとだから。
 胸に手を添えると心臓と喉が熱くなる感じがした。
 占い師は言った。今日は運命の夜になると。
 運命の人が、私の運命を導きに来る。
 あの大きな背中は、きっと私が求めていた物のはずだ。
 声も、身振りも、掛けてくれた言葉も覚えている。

「でも」

 名前と顔が思い出せない。
 大切な人の筈なのに。
 いちばんほしかったもののはずなのに。
 だから待とう。今日はこんなにも――いい月夜なのだから。

 夜の街を歩く。
 静かな夜だった。
 静かな街だった。
 静かな風だった。
 静かな月だった。
 ――死に絶えたような空気だった。
 空には大きな満月。少し寒い、氷曜日の月。蒼く蒼くまあるいお月様。
 熱に浮かされたようにふらふらと歩く。
 あの後ろ姿を思い出すたびに、胸が熱くなる。

 ああ。早くこないかな。
 月をしばらく見上げ、そして、鈴の音がきこえた。
 静かな夜に、その音はよく響いた。
 近づいてくる。鈴の音が近づいてくる。
 胸が熱くなる。
 この音は知っている。このリズムも知っている。この鼓動も知っている。
 音のする方を見上げた。
 坂の上に、人影があった。
 瞳の色は深淵の黒。醒めるような蒼い服。銀色に光る剣の群れ。
 大地に幾本もの剣を突き立たせ、大きな大きな満月を背負って。

「やっと、あえたね」

 少女はまるで恋いこがれる人を迎えるように両手を広げ。
 少年はまるで人形の様な顔で。深淵の瞳で少女を見つめる。

 ここが運命の場所となる。
 ――さぁ、決闘(デート)を始めよう……!



つづかない。
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by creatle | 2011-08-17 02:07 | 小ネタ劇場


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