砂塵の記憶

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2011年 05月 06日

青き空に赤き御旗を 26

 戻ったカイルさんは特に怪我も無く。
 しかし憔悴しきった表情が事態の重大さを物語っていた。







「報告します。アスタル、バルディアス両名は本物。
 戦力は公表通り。1個中隊クラスであると思われます。
 そして、その他と記載された人物は――間違いなく、クリエルだった」

 一同にどよめきが起こる。
 戦死したと思われたクリエルさんが、敵側に回った。
 推測するべき所はいくらでもあるが、驚きは隠せない。

「一番厄介なのが敵に回ったか……。
 もし対決する流れになろうものなら、戦力情報はほとんど向こうが握ってる。
 情報戦的にも、戦力的にも不利。これは厳しい事態になったな……」

 ガンヴィーノ隊長が眉間にシワを寄せつつ呟いた。

「ん?カイルさん。鎧の間に何か挟まってる」

 アイーシャがカイルの鎧から紙を取り出した。

「ん……そこはクリエルと交戦したときに一撃貰ったところだ」

 カイルの紅い鎧、ショルダーガード部分がひび割れていた。
 アイーシャは紙を開き、首をかしげた後、ひらひらと紙を振った。

「スラグさーん……これはどういうことかな?」

 ピッと紙を開き、こちらに見せると、そこに書いてあったのは

『スラグが話す』

 クリエルさんの文字に間違いなく、そして指名がスラグさんである。

「ああ。ここで話せということですか」

 そして共犯は当然のように自供しますと言うのだった。


「さて、どこから話しますかね」

 スラグさんらしからぬ余裕の満ちたニヤリ笑い。
 まるでいたずらが成功した子供のような笑みだった。

「まず、クリエルさんが敵か、味方か」

 カイルさんが間髪入れずに割って入った。

「敵かどうかと言うなら、そうですね。
 ――彼は絶対に味方です。
 フラッドさんに捧げた騎士の誓いは伊達じゃないらしいですよ」

 ここまでくれば、何かの目的で敵も味方も欺き続けたことになる。

「なら、この事件の本当の目的は?グラハム氏を討つための布石ですか」

 私の発言に、スラグさんは緩やかに首を振った。

「いいえ。クリエルさんにグラハム氏を倒す意図はありません。
 むしろこの事件が起きるきっかけになったというべきでしょう。
 まず、ここまで事件を引っ張ってきた理由ですが――。
 ああジェイトンさん。クリエルさんの部屋から、
 日記帳を持ち出してると思うのですが」
「コレのことね。中身は見させて貰ったわ。
 コレを持ち出す際にも、監視の目があった。
 監視をかいくぐるためだったのね。今までの行動は」

 ええそうです。と、スラグさんは日記を受け取った。

「ではこちらを見てください。団長代理・軍師・フラッドさんは特に。
 今回の事件ですが、きっかけは金塊の競売相場でした」

 日記帳には、およそ3ヶ月前の日付の競売相場が、
 別紙で貼り付けてあった。
 って、コレってもしかして。

「ちょ、スラグさん。コレもしかして彫金ギルドの内部資料じゃない?
 コレ持ち出しバレたら、超マズイことになるよ?
 というか、コレどうやって手に入れたの!?」

 間違いない。市場動向や価格バランス調整などで使用される資料だ。
 しかもバストゥーク彫金ギルドの門外不出重要機密書類。

「しかし、コレが問題ないらしいんです。理由は……クリエルさんなのでと言っておきます
 問題はそこではなく、ここ、一日だけ異常に安い日付があるんです。
 理由は供給過多による値崩れが原因です。
 しかし、彫金ギルドが緊急で資金を投入して元に戻しています。
 売り抜きで大量の資金を調達したかったんでしょうね。
 それだけだったらどこぞのバカ貴族が現金工面しようと資産を削ったか、
 あるいは貴金属販売業者の価格操作かと思うだけなのですが」

 スラグさんは自分の荷物袋の中から、一つの金塊を取りだした。

「これがそのときに供給過多で値崩れさせた金塊です。
 普通、流通可能な金塊は、作成者や作成所の印を押すのが普通です。
 冒険者が改鋳した物も出回ってますが、少量です。
 世間の相場を動かすほどの量ではありません。
 フラッドさん。この金塊の印、見覚えはありませんか?」

 金塊を手渡された。
 金塊の表に印が彫られている。
 ――この印は、他の人ならいざ知らず、自分には忘れられない印だった。

「フレイネージュ家の家紋――!」
「そうです。フレイネージュ家の備蓄金塊だったのです。
 昨日お話しましたが、フレイネージュ家は代々、
 宝物をとある場所に隠し、お家の危機に備えてきた家系です。
 フレイネージュ家は鍛冶ギルドの設立に関わった貴族の一家だそうです。
 貨幣の鋳造、管理で大きな利益を得て、数多の金塊を備蓄した当主も居たそうです」

 不意にコトナリアさんが小さく手を挙げた。

「なら、その金塊を“売りさばいた人物”がグラハム氏だった訳ね」

 すると、スラグさんが頷いた。

「ええ。このあたりは売り子を引っ捕まえて自供させました。
 しかし、そうすると、『フレイネージュ家の金塊』を
 どうして『グラハム氏』が手を付けることが出来たのか。
 そこが問題です。
 調べた所、フレイネージュ家の隠し財宝は、
 フレイネージュ家直系の者しか得られない筈なのです。
 封印を解ける者が当主になれるという話もあります。
 なら、どうやって封印を解いて、財宝を得ることが出来たのか」

 スラグさんは日記帳のページをめくり、みんなに示した。

「で、浮き上がって来たのがコレです。
 例の、火災死亡事故報告書。
 つまり、フレイネージュ邸火災事件です」

 この事件で、フレイネージュ家の直系は絶えた。ということになった。
 しかし、血は絶えたとしても、財宝は残されたままだ。

「まず、フレイネージュ家の出火原因ですが、リビングから出火しています。
 暖炉の火の不始末が原因だと記録されていますが、リビングの暖炉周りは石造りです。
 サンドリアの伝統的な造りで、今までそこから延焼した記録はありません。
 なにしろ、床は大理石製でしたから、火が付くこともありません。
 フレイネージュ当主ご夫妻もここで倒れられていた事も怪しいです。
 なぜ、消火活動も出来ずに倒れられていたのか」

 スラグさんがページをめくる。
「ふたつめ。
 当時出入りしていた人物が居ないと記録されていますが、
 前日に、ここでサンドリアギルド連合の会合が開かれていました。
 会合の後、使用人が全員帰宅させられています。不自然な事に。
 その夜に、事件が起こっています」

 さらにスラグさんがページをめくろうとした時、
 一つの文が目についた。

「す、スラグさん。使用人一覧のところ、アシュレイ・ロイス、アーシェ・ロイスって」
「ああ気づかれましたか。実は、ロイス家ご夫婦、
 あのアシュレイさんはフレイネージュ家絡みだったってことです。
 しかも、クィールさんの母親だそうで。
 クリエルさんの情報源は、あの一家だったわけです」

 すると、アイーシャさんがちょっと待ってと手を何度も振った。

「じゃあじゃあ。ひょっとすると、グラハム配下のアシュレイ・ロイスって。
 もしかしてクリエルさんの協力者?実は味方だったりとか?」
「そのようです。最初から、全部計画していた流れだったんですよ。
 サンドリア脱出からクリエルさん行方不明まで。
 実は実質的な敵というのは、グラハム氏一人だったりするんですよ」
「完全にチェックメイトじゃんか!攻めれば一撃!」

 しかし、アイーシャの熱の籠もった台詞に、スラグは首を振った。

「確かに、戦争しているならばそれでチェックですが。
 今は戦後。しかも相手は国内の名士……となっています。
 疑いはあっても、確証はありません。うかつに糾弾できません。
 こちらの立場が危うくなる可能性をなるべく排除したい。
 そういう意向のクリエルさんはその作戦を排除しました」

 スラグさんはページをめくった。

「話を戻しましょう。火災事件ですが、
 シャングリラさんにも触れています。
 遺体は火災により全損。側の遺留品や手の一部などから本人死亡を確認とあります。
 側の遺留品……それが問題です」

 指し示された一文を見た瞬間、思わず声を上げてしまった。

「遺留品が……ぬいぐるみ!?」
「ええその通りです。そこがおかしいのです。
 人体が灰燼に帰すような猛火の中で、何故ぬいぐるみが燃えずに残るのか。
 他にも、ベッドや机の上の置物など、かなりのものが焼失を免れています。
 さらに、この報告書を書いた、建築の専門家が――」

 報告書最後のページをめくった。
 そこに記載されていたのが。

「グラハム・ヴォーラス……!」
「この報告書も改ざんし放題、ヤツはそういう立場だったのか!」

「そういうことです。
 そして、これがクリエルさんが出した最終的な結論です。
 コレが、今回の事件における、クリエルさんの真の目的、真の理由です」

 そこにはたった一文、大きく書かれていた。

“シャングリラ・フレイネージュはグラハム氏に幽閉され、生存している可能性がある”
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by creatle | 2011-05-06 03:19 | 外伝:蒼き空に紅き御旗を


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